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「えー、なんでまた・・・」

「知らん、とにかく行くぞ」

 

 

 

惰性 二

 

 

 

 

 

 

 

 

「村上香澄さんですか、僕の担当ですね」

「えぇ、それで聞き込みに来たんですよ」

「聞き込みですかー、お疲れ様ですね」

 

のほほんとした医者を目の前に加野は苛立っていた

それが後ろに立っていた榊にもひしひしと伝わっていた

 

「でも最近は来られてないですよ?」

「いつからですか」

「2か月くらいになりますかねー、最近は調子も良さそうだったし薬の量も減ってましたから」

「・・・・・そうですか」

 

榊は加野がいつ怒鳴り出すかと気が気ではなかった

加野の機嫌が悪くなるのは無理もない

他の管轄から回されてきた“家出少女”の探索、これは元々僕たちの担当ではなかった

僕たちは本来、暴力犯捜査が担当なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

「保険証も実家のままだしな…なんで今更家族は捜索願いなんて出したんだ」

「どうも携帯でのやりとりはずっとしてたみたいなんですよね、ただそれが」

「ぱったり来なくなったもんだから心配になった、か…最近多いなぁ」

「そうですね…」

 

加野はコンビニの前で紙パックのオレンジジュースを飲みながら煙草を吸っている

ストローを噛むのは彼の癖だ

一度指摘したことがあったが案の定、怒鳴られて終わりだった

それからはあまり干渉しないようにしている

 

 

「あの精神科医からも大した情報ありませんでしたね」

「あの野郎、話を聞いてんのか聞いてねぇのか全然アテになりゃしねぇ」

「また今度きたら刑事さんにも連絡しますっていってましたけど」

「それすらも怪しいもんだな、よし榊。次だ次」

「同級生からあたりますか」

「行くぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「あーきーのっ、おつかれ!」

「ただいまー」

 

 

帰宅、最近は以前よりも出迎えが早い

 

「ご飯食べよ!」

「うんー、先に食べててー」

「なんで?仕事?」

「んーちょっと広告がねー」

 

 

あの部屋の一件から香澄はますます私にべったりとくっついて回るようになった

何かを隠しているのは分かっている

でも探ろうとは思わない

こんなに尽くしてくれているし

こんな私の事を大切だと言ってくれている

 

これ以上に何を望むというの

 

知らなくてもいい、私はそう思うことにした

 

 

 

「あ、そうだ。DVD見ようよ!」

「えーまたそれ見るの?もう飽きたよ」

「だって面白いんだもん!あきのも好きだって言ってたでしょ」

「言ったけどー」

 

香澄は一度好きだといったものを何度も見たがる

何度も、何度も。

いつも同じ、小説も、漫画も、DVDも全て。

物だけじゃない、食べ物だってそう

好きだっていった物しか食べない

付き合ってすぐの頃に私がカレーが好きだといったら3日連続でカレーが出たこともある

 

「たまには違うの借りてこようか」

「えー、めんどくさーい」

「それ、続きも出てるから見ようよ」

「う、それは気になる」

「明日借りてくるね」

「うん!ありがと!」

 

 

根本的にこの子は日常のサイクルを変化させることが苦手なようだ

部屋の模様替えも嫌がるし服の系統も変わらない

髪型だって・・・

 

 

「あれ…?」

「ん?どうしたの?」

「香澄さ、髪の毛ってどうしてるの?」

「えー?どうもしてないよー!」

 

香澄はゆるくウェーブのかかった長い茶髪を触りながら私の方に振り向いた

 

「髪の長さ変わんないけど自分で切ってるの?」

「あーそうだよー、てか今まで気付かなかったの?」

「いっつも一緒だからあんまり意識してなかった・・・かも?」

「えー!あきの酷い!」

「ごめん、ごめん」

 

香澄が飛びついてきた

まるでじゃれる子猫みたい

私は目の前にある柔らかな髪を撫でた

 

 

「ふわっふわだよね、羨ましい」

「私あきのの髪好きだよ、黒くってさらさらで。なんたってストレートだし!」

「あー・・・香澄は天パだもんね」

「失礼な!猫っ毛なだけだもん!」

 

 

二人で笑いあいながらいつもみたいに色んな話をした

テレビの画面の中では恋人たちが悲しい別れをするシーンだったけれど

私たちはそれに目も向けずに笑い合っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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